気づいてるか?
SpaceXが上場後初の黒字を出し、AI部門の売上は前年の約9倍になった。ロケットとGrokの話に見えるが、このニュースの核心は「AIの勝ち負け」ではなくて、
『ブームで一番確実にお金が入るのは、AIを作る側ではなく、作る人に道具と場所を貸す側だ』ということだ。その理由と新たなビジネスチャンスについて解説する。SpaceXはイーロン・マスク氏の宇宙企業で、2026年6月に株式を上場した。10月20日に出た7〜9月期の決算で、売上は145億ドル超と前年の2.6倍。純利益は44億ドルで、前年同期の約10億ドルの赤字から一気に黒字へ転じた。
伸びの中心はAI部門だ。売上は75.6億ドルと前年同期の約9倍で、全社の約半分を占める。増えた主な理由は、自社のAI「Grok」の人気というより、計算能力の貸し出しだ。
計算能力とは、AIを作り動かすための大量の専用コンピューター(中核の部品はGPUと呼ばれる)の処理力のこと。名前は難しいが、要は「AI用コンピューターの時間貸し」だ。毎日使うChatGPTのようなアプリの裏側で、作る会社がまとめて借りる設備になる。借り手にはClaudeを作るAnthropicやGoogleがいて、どちらもGrokの競争相手だ。
AIを作る会社は、計算を止めた瞬間に開発が遅れる。だから自分が勝てるか分からなくても、毎月の計算は止められない。すると誰が勝っても負けても、計算能力の需要は全員から出てくる。SpaceX自身もGrokで競争に加わりながら、ライバルのAnthropicとGoogleから料金を受け取っている。
花火大会の日、会場近くのコインパーキングは朝から満車になる。どの花火が一番きれいだったかに関係なく、停めた時間の分だけ料金が入る。AIを作る会社が借りる計算能力も同じだ。勝負の行方を当てなくても、勝負に参加する全員が使う。
もう一つ、見落とされがちな数字がある。全社の営業利益(本業のもうけ)の約85%は、今も衛星ネット回線のStarlinkから出ている。こちらも回線を毎月の利用料で使ってもらう商売だ。黒字を支える二本の柱は、どちらも借りた分、使った分だけ毎月お金が入る仕組みになっている。
SpaceXはこの3カ月だけで、AI向けの設備に約164億ドルを投じた。「それは何兆円も払える大企業の話だ」と思った人は鋭い。だが、借り手が本当に欲しいのは巨大な設備そのものではない。今すぐ、手頃な値段で、迷わず使えることだ。そこなら個人や小さな会社でも用意できる。
ちなみに、非エンジニアの私が個人開発した決済導入支援SaaS『Apps』は、ネット決済のStripeの使いにくさを埋める側に回った。小さな事業者には管理画面の言葉も決済ページ作りも難しかったからだ。料金は月額ではなく決済金額の2%だけにした。その結果、Appsは4年で流通総額100億円を突破した。同じ構造(主役の勝ち負けに賭けず、使われた分だけ受け取ること)が、今回のニュースの中心にある。
では、どう張るか。新しいビジネスチャンスは3つある。
「GPU時間貸し」ビジネス。手元の高性能PCや中古GPUを、AIを試したい個人開発者に時間単位で貸す。米国のVast.aiが運営する『Vast.ai』は、世界中の貸し手のGPUと借り手をつなぐ市場で、350超の独立した貸し手から1万7,000基以上のGPUが並ぶ。
「社内AI窓口」ビジネス。中小企業に、複数のAIを一つの画面で使える環境を月額で貸し、相談まで受ける。ドイツのLangdockが手がける『Langdock』は、各社のAIを社員に一括で配る仕組み。2023年創業で、ARR(年間の継続売上)は5,000万ドルに届いた。
「空き物件GPU置き場」ビジネス。地方の空き倉庫を、GPUを置きたい事業者向けに電気と冷房ごと整えて貸す。日本のハイレゾの『GPUSOROBAN』は、廃校など地方の空き施設を改装した拠点でGPUを貸すサービスで、石川・香川・佐賀に5カ所を開いてきた。
結論。
AIの主役争いは、これからも何度も順位が入れ替わる。その勝ち負けを当てる力より、作る人が毎月必ず使うものを手の届く値段で貸せる力のほうが長く残る。大事なのは設備の大きさではなく、借り手が途切れないことだ。つまり、勝ち負けの外側で毎月の利用料を積み上げる小さな貸し出しが、次の数年の主戦場になっていく。
やるしかねえ。Don’t Work!
個人開発者が起業で一発当てたいなら『笠原健治の2013年に学べ』という話を解説します。
MIXIの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」の利用者が、2026年5月時点で3000万人を突破しました。そのうち約4割は海外のユーザーで、国内でもママとパパの65%が使っている(2024年12月時点)そうです。プレジデントオンラインによれば、この数字はmixiピーク時の約2700万人を上回ります。かつての看板サービスを、同じ会社の家族向けアプリが利用者数で追い越したわけです。
10月19日配信のAERA DIGITALでは、生みの親である笠原健治氏が、みてねがどうやって生まれ、どう広がったのかを語っています。
そんな笠原氏ですが、実はみてねが「自分の家の困りごと」から生まれたことはご存知でしょうか?
笠原氏がmixiの代表を退いた2013年、第1子が生まれました。遠方に住む両親に子どもの写真や動画を届けようと、既存のクラウドサービスを使ってみたものの、共有や振り返り向けに作られていないため、写真の選別は面倒で、動画は再生が遅く画質も悪い。そこで笠原氏は、自分で作ると決めました。
開発では0歳児のママ・パパ20組ほどにテストへの協力を頼み、サービス開始後は1年半ほど自らカスタマーサポートを担当。都内の公園に一人で出向き、チラシを配ったこともあるそうです。かつて約2700万人が使ったSNSの創業者が、公園で一枚ずつチラシを手渡していたのです。
ここからが本題です。みてねの3000万人は、大きな市場を狙った戦略から逆算して生まれたものではありません。創業者自身が親になって毎日ぶつかった不便を、自分で作り、自分で配り、自分で問い合わせに答えるところまで面倒を見た結果です。mixiで大成功した人でさえ、次の柱は机の上の企画書ではなく、自宅のリビングから見つけています。一番強い事業の種は、自分が当事者として毎日ぶつかっている不便なのです。
ちなみに、私が個人開発した決済導入支援SaaS『Apps』も、広告で伸びたプロダクトではありません。Stripeは固定費がかからない一方、小さな事業者には管理画面の言葉が難しく、決済ページを作る段階で手が止まりがちでした。その詰まりを人力の導入サポートで一件ずつほどき、夜中に問い合わせが来ても、起きていればすぐ返す。その対応が口コミになって広がり、Appsは4年で流通総額100億円を突破しました。
みてねと同じで、最初の利用者に作り手が直接向き合った手間こそが、いちばん効く集客になったのです。
さて、ここから私たち個人開発者が何を学べるのか整理します。
❶自分が当事者の不便から始める
→笠原氏は親になって初めて、写真共有の不便を毎日の痛みとして知りました。ネタ探しは市場調査より先に、自分や家族が毎週イラッとしている作業を書き出すところから始めるのが近道です。
❷最初のユーザーは自分の手で集める
→3000万人のアプリも、入口は公園のチラシでした。チラシ配りは非効率に見えますが、誰が本当に困っているのかを肌で知れる一番安い調査でもあります。最初の10人は広告ではなく、知り合いへのDMや対面のお願いで集めるほうが早く、反応も濃く返ってきます。
❸問い合わせ窓口は作り手が持つ
→笠原氏は1年半ほど自らサポートを担当しました。ユーザーの困りごとを直接聞く窓口は、そのまま改善のネタ帳になります。小さいうちは、作り手が自分で答えること自体が、大手に真似できない強みです。
というわけで、笠原健治氏の2013年の事例を参考に、まずは自分や家族が今日ぶつかった不便を一つ選び、それを解く道具を作って、最初の利用者に自分の手で届けてみてください。
結論。
事業の種は市場レポートではなく、自分の生活の中にあります。そして最初の利用者は、仕組みより先に作り手の手間で集めるものです。その手間を惜しむかどうかが、伸びるサービスと止まるサービスの分かれ目です。
やるしかねえ。Don’t Work!
気づいてるか?
人材会社SThreeの日本調査で、AIで人を減らした職場の7割近くが、その決定を一部撤回していた。このニュースの核心は「AIが使えなかった」ではなくて、
『AIで作業が速くなるほど、答え合わせできる人が必要になる』ということだ。その理由と新たなビジネスチャンスについて解説する。SThreeは技術職の人材紹介を手がける英国の会社で、10月15日、日本で働く技術職794人に聞いた調査結果を出した。
ここでいうAIは、文章や資料、プログラムを自動で作る道具のこと。AIの導入を機に人員削減があったと答えたのは全体の13.2%にあたる105人で、そのうち67.6%が「少なくとも一部が撤回された」と答えた。これから撤回予定の18.1%を足すと85.7%になる。撤回には、辞めた人の再雇用や、なくした持ち場の復活も含まれることがある。
「やっぱりAIは役に立たないのか」と不安になる人もいるだろう。だが、AIを使う592人のうち64.9%は、2年前より仕事がはかどるようになったと答えている。
一方で、回答者全体の39.4%が、AIが作ったものの確認にかける時間が増えたと答え、35.4%が手直しの時間が増えたと答えた。速くはなったのに、確かめる手間は増えている。この食い違いこそが核心だ。
スーパーのセルフレジを思い出してほしい。会計は客が自分でやるが、お酒の年齢確認や読み取りのエラーが出るたびに店員が呼ばれる。台数を増やすほど、そばで対応する店員は欠かせなくなる。AIを入れた職場の仕事も、これと同じだ。
AIは文章も資料も、一瞬で大量に書き上げる。ただ、もっともらしい文章で答えが返ってくるので、検索のように出どころをたどって確かめるのが難しい。間違いが混ざっていても、見た目だけではわからない。
見分けられるのは、その仕事の中身に詳しい人だ。出てくる量が増えるほど、見分ける作業も同じように増えていく。
それなのに、見分けられる人から先に減らすとどうなるか。間違いが素通りし、手直しが積み上がり、結局その人を呼び戻すことになる。同じ調査では、技術系の人材の補充が難しいと答えた人も46.6%いる。一度手放した人の穴は、そう簡単には埋まらない。これは推測だが、撤回の多くはこの順番で起きたのではないか。
「なら最初から人を減らさなければいい」と思った人は鋭い。だが、守るべきは人数ではなく、答え合わせに必要な仕事の知識のほうだ。知識が残っていれば、少ない人数でもAIを使いこなせる。
ちなみに、非エンジニアの私が個人開発した決済導入支援SaaS『Apps』は、画面だけで終わらせなかった。Stripeは当時もあったが、小さな事業者には管理画面の言葉も決済ページ作りも難しかった。だから、わかりやすい画面に人の手による導入サポートを付けた。その結果、Appsは4年で流通総額100億円を突破した。同じ構造(道具を渡すだけでなく、人の手で仕上げること)が、今回のニュースの中心にある。
では、どう張るか。新しいビジネスチャンスは3つある。
「AI答え合わせ」ビジネス。AIで問い合わせ窓口を作った中小企業に、誤答がないかの点検を月額で売る。仏パリで2人が創業したGiskardは、AIの誤答や危ない返答を洗い出す無料ソフト『Giskard OSS』を公開し、人気の目安のGitHubスターは約5,900だ。
「手順の書き出し」ビジネス。ベテランが辞める前に、パソコン作業の手順を書き出して残す仕事を、地元の会社から請け負う。米サンフランシスコで2019年に2人が始めたScribeは、画面操作を記録すると手順書が自動でできる『Scribe』を広げ、利用者は500万人を超える。
「出戻り採用」ビジネス。AIで人を減らしすぎた会社に、辞めた人と連絡を保ち、必要なときに呼び戻す仕組みを売る。2017年に東京で生まれたハッカズークは、退職者とのつながりを管理する『オフィシャル・アルムナイ』を運営し、退職者のデータを約4万人分持つ。
結論。
AIが速くなるほど、出てきたものを見分ける人と、その人が持つ仕事の知識の値打ちは上がっていく。減らした人を呼び戻す会社が出てきた今、狙い目はその手前にありそうだ。人を減らす側ではなく、答え合わせを引き受ける側に立った者が残るだろう。つまり、AIが作ったものの確認と手直しを小さく請け負う商売が、これからの有望テーマになっていく。
やるしかねえ。Don’t Work!
個人開発者が起業で一発当てたいなら『VASTの2023年に学べ』という話を解説します。
中国の3D生成AI「Tripo」を作るVASTが、今年9月に30億元、約4.5億ドルの資金を集めました。出資したのはパーフェクトワールドや37 Interactive Entertainmentといったゲーム会社です。6月には評価額10億ドル超のユニコーンになり、3月の調達から数えると今年3回目です。Tripoは文字や写真を入れると数十秒で3Dモデルが出てくる道具で、利用者は3年で2,000万人、その大半が中国の外にいます。
そんなVASTですが、実は創業者がもともと会話AIの会社を作った人だというのはご存知でしょうか?
創業者のサイモン・ソンさんは、大学で国際関係を学びながら戦略ゲーム「シヴィライゼーション」に明け暮れ、卒業後はAI企業センスタイムでゲームとアニメの事業を見ていました。その後、会話AIや動画生成で知られるMiniMaxを共同で立ち上げます。2023年、ソンさんはMiniMaxを離れて3DだけのVASTを作りました。きっかけは前年にGoogleが出した「文字から3Dを作る」研究です。当時、3Dモデルは職人が何日もかけて作る物で、ゲームでも商品の試作でも、ここがいつも詰まる場所でした。会話AIが一番にぎやかだった年に、ソンさんはあえて地味な3Dに絞り込みます。本人の言葉を借りれば「誰もが3Dをゼロコスト、ゼロ障壁で作れるようにする」ためです。
この戦略が見事に当たります。去年の夏には企業の顧客が4万社に届き、テンセントやソニー、ポップマートが名を連ねました。今年は3月、6月、9月と立て続けに資金が入り、9月の出資者には作った3Dを使う側のゲーム会社が並びました。
ここからが本題です。VASTが証明したのは、専門家にしか触れない道具を素人が数十秒で使える形にすると、作る側ではなく使う側の業界が金を出してでも欲しがる、という順番です。賢いAIの競争に勝ったのではありません。一番面倒な工程を一番簡単にした会社に、仕入れたい側が集まったのです。
ちなみに、私が個人開発した決済導入支援SaaS『Apps』も、入口は同じ順番でした。知り合いの税理士に「クレカ決済を入れたい」と相談されたとき、固定費のかからないStripeはすでにありました。ただ、非エンジニアには管理画面の言葉が難しく、決済ページを作るところまで辿り着けない人がほとんどでした。そこで私は、リテラシーが低くてもStripeを使える管理画面と、人力の決済導入サポートを作りました。料金は月額ではなく決済金額の2%だけ。売上がゼロなら1円も入りません。その結果、Appsは4年で流通総額100億円を突破しました。VASTと同じで、道具そのものを発明したのではなく、専門家の道具を素人が使える形に直しただけなのです。
さて、ここから私たち個人開発者が何を学べるのか整理します。
❶にぎやかな本流ではなく、職人しか触れない工程を狙う
→会話AIの年に3Dを選んだように、みんなが並ぶ列の隣にある「面倒で誰もやりたがらない作業」を一つ選び、素人が数十秒で終わる形にしてください。
❷無料で公開させ、売る人からだけ取る
→Tripoの無料枠は作った物が公開され、商用は有料です。無料の作品が宣伝と見本になり、商売にする人だけが払う。この順番は一人でも組めます。
❸最初の客は、作る人ではなく使う側
→ゲーム会社が出資したのは、3Dを仕入れたいからです。あなたの道具の出力を仕入れたい会社を、最初の客に据えてください。
というわけで、VASTの事例を参考に、自分の商圏で「職人にしか触れない工程」を一つ探し、それを素人の部品に変える道具を作ってみてください。
結論。
VASTが示しているのは、AIの賢さの勝負ではない。専門家の道具を素人の部品に変えた者が、使う側から金を集める。次の勝者は、一番賢いAIを持つ会社ではなく、一番地味な工程を一番簡単にした会社になる。
やるしかねえ。Don’t Work!
気づいてるか?
国内サイトへのAIエージェントの攻撃が8時間弱続いたニュースが話題だが、このニュースの核心は「AIが怖い」ではなくて、
『攻撃は人の手を離れて8時間でも続くようになったが、守り方は昔のまま。差がつくのは、当たり前の手入れを続けているかどうか』ということだ。その理由と新たなビジネスチャンスについて解説する。10月14日、ビットフォレストが、日本企業のサイトへのAIエージェントを使った攻撃を報告した。同社は、Webサイトの手前で怪しい通信を止めるサービスを売る国内の会社だ。
AIエージェントとは、目標を渡すと、結果を見て次の手順を選びながら作業を進めるAIの使い方だ。毎日使う対話型のAIは、1回聞けば1回答えて終わる。エージェントは、試す、結果を読む、次を試すを何時間でも繰り返せる。
観測期間は10日夜から14日までで、少なくとも3つの発信元から攻撃が届いた。最も長いものは8時間弱続き、サーバーの返事を読みながら10段階で手口を替えた。毎秒約35件のペースで約1万件を調べ上げ、すでに知られた弱点も突いた。ログインの総当たり(パスワードを片っ端から試すこと)は約250回にのぼる。別の発信元は、問い合わせフォームへの連投を含む5段階の攻撃だった。
「AI相手なら、守る側もAIで固めないと負ける」と思った人は鋭い。だが、ビットフォレスト自身が、相手がAIでも対策は大きく変わらないと書いている。挙げた対策は、弱点を直しておくことと、決まった攻撃の型との照合だけに頼らない防御を入れることだ。どちらも、昔から言われてきた守り方だ。
変わったのは手口の新しさではなく、攻める側の手間のほうだ。人が手で攻めていた頃、1つのサイトに8時間張りつくのは割に合わなかったはずだ。だから攻め手は、入りやすそうな相手を選び、だめならすぐ次へ移るしかなかった。
空き巣という泥棒は、鍵の開いた家を探して一軒ずつ戸を確かめて回る。歩く手間がかかるから、一晩に回れる家には限りがある。その手間が消えれば、町中の家が毎晩確かめられることになる。それでも、きちんと鍵をかけた家には入れない。人の手を離れた今回の攻撃も、これと同じだ。
返事を読んで手口を替える攻撃が、人の手間なしで8時間続く。これは推測だが、そうなれば攻める相手を選ぶ理由が薄れ、小さな会社のサイトも同じしつこさで試されるようになる。使い回しのパスワードや、更新を止めたWordPress(ホームページ作りの定番ソフト)の追加機能は、いずれ見つかると考えたい。逆に、手入れが続いているサイトは、何時間試されても破られにくい。
差を生むのは技術の新しさではなく、手入れの有無だ。守り方はもう分かっていて、足りないのは、それを毎月続ける人手のほうだ。
ちなみに、非エンジニアの私が個人開発した決済導入支援SaaS『Apps』は、固定費のかからない決済サービスのStripeを、使いやすくすることだけに絞った。道具は既にあり、足りないのは迷わない管理画面と、横で導入を手伝う人だと見たからだ。その結果、Appsは4年で流通総額100億円を突破した。同じ構造(道具はあるのに、小さな事業者が使える形で届いていないこと)が、今回のニュースの中心にある。
では、どう張るか。新しいビジネスチャンスは3つある。
「ログイン見張り」ビジネス。工務店や士業のWordPressに、ログイン失敗の回数制限を入れ、月額で見回る。日本のジェイピー・セキュアの『SiteGuard WP Plugin』は、失敗が続いた相手を一時的に締め出す無料の追加機能で、使われているサイトは50万を超える。
「更新代行」ビジネス。小さな店から、サイトの追加機能の更新と点検を月1回まとめて請け負う。エストニアのPatchstack社は『Patchstack』で、弱点の公表と同時に攻撃を止めるルールを配る。2025年にWordPress周りで見つかった新しい弱点は1万1334件だ。
「夜間当番」ビジネス。夜に相談先のない地域の会社へ、サイトの見張りと、異常が出たときの連絡を月額で売る。米国のDefiant社の『Wordfence』は、WordPress用の守りの追加機能に人の対応を付けて売り、最上位プランは24時間365日、1時間以内に応じる。
結論。
攻める側が人の手を離れるほど、守る側では、当たり前を続ける人の手に価値が移っていく。この流れで勝つのは、新しい守りの技術を作る人より、すでにある守り方を小さな事業者の手元まで運び、毎月やり続ける人だろう。つまり、地元の小さなサイトの手入れを丸ごと引き受ける地味な仕事が、これからの有望テーマとして育っていく。
やるしかねえ。Don’t Work!
個人開発者が起業で一発当てたいなら『日本交通の2011年に学べ』という話を解説します。
タクシー配車アプリ『GO』を運営するGOが10月15日、6〜8月期の決算を発表しました。売上高は122億円、営業利益は30億円です。タクシーを呼ぶとき、電話ではなくまずGOを開く。そんな人も多いのではないでしょうか。
そんなGOですが、実は出発点が「ピザ屋のアプリ」だったことはご存知でしょうか?
2011年1月、老舗タクシー会社の日本交通は、スマホだけでタクシーを呼べる「日本交通タクシー配車」を出しました。会社自身が「日本初」とうたったアプリです。手本にしたのは、住所ではなく地図上で印をつけた場所へ商品を届けるピザ店のアプリだったと、川鍋一朗氏は後に語っています。電話で住所を説明するという、タクシーを呼ぶときの面倒を、ピザの仕組みで解いたわけです。
同じ2011年の12月、日本交通はこの仕組みを自社だけのものにせず、「全国タクシー配車」として他社にも開きました。発表時点で13グループ、8,595台が提携しています。ライバルの車も、同じアプリで呼べるようにしたのです。
アプリ完成の記念に訪れたシリコンバレーでUberを使ったとき、川鍋氏は「ゾーッとした」そうです。祖父から継いだタクシーがなくなるかもしれないと感じ、「IT企業の社長になる」と決めました。2015年には日本交通の社長を譲ってアプリに専念します。その後、DeNA系のMOVと一緒になって生まれたのが、いまのGOです。
ここからが本題です。いまの売上122億円の出発点は、2011年に自分たちの現場の不便を道具にし、それを業界全体に配ったことにあります。自分の困りごとを解いた道具は、同業者に配った瞬間に事業になるのです。
ちなみに、私が個人開発した決済導入支援SaaS『Apps』も、最初は一人のために作った道具でした。知り合いの税理士から「クレカ決済を導入したい」と相談されたのがきっかけです。固定費のかからないStripeはすでにありましたが、非エンジニアには管理画面の言葉が難しく、決済ページを作るのもひと苦労でした。
その友人のために無償で作ったものが周りに感謝され、それを商品として磨き直したのがAppsです。日本交通と同じで、目の前の一人の不便を解いた道具を、同じ悩みを抱える人たちへ開いたから、事業になったのです。
さて、ここから私たち個人開発者が何を学べるのか整理します。
❶手本は業界の外から借りる
→日本交通が参考にしたのは、同業のタクシー会社ではなくピザ店のアプリでした。自分の業界で当たり前になっている面倒は、別の業界ではもう解かれていることがあります。
❷自分の現場の不便から作る
→電話で住所を伝える面倒は、タクシー会社自身が毎日見ていたものです。自分が毎日ぶつかる不便なら、需要を想像で語らずに済みます。
❸作った道具は同業者にも開く
→自社専用で終わらせず他社も使える形にしたことで、一社のアプリが業界の入口になりました。自分用の道具も、同じ悩みを持つ人に配れば事業になります。
というわけで、日本交通の事例を参考に、まずは自分が毎日ぶつかっている面倒を一つ選び、ほかの業界ではどう解いているかを探して、小さな道具にしてみてください。自分の手元で動いたら、同じ悩みを持つ人に配ってみてください。
結論。
自分の現場の不便は、いちばん確かな市場調査です。そこで作った道具を自分だけで使うか、同業者に配るか。事業になるかどうかは、その判断で決まります。
やるしかねえ。Don’t Work!
個人開発者が起業で一発当てたいなら『カーブスの2005年に学べ』という話を解説します。
女性専用フィットネスのカーブスを運営するカーブスホールディングスが、2026年8月期の決算を発表しました。売上高は前期比15.5%増の433億8700万円、営業利益は同22.3%増の77億5500万円です。経常利益と純利益も含め、すべて過去最高を更新しました。
会員数は91.9万人で、前期末から4.1万人増えています。店舗数は2112店舗です。2030年8月期には2600店舗・会員120万人を目指すという中期ビジョンも出しています。コロナ禍の2020年4月には会員が54万人まで減った時期もありました。そこからの完全復活と言っていいでしょう。
そんなカーブスですが、実は日本での始まりは、一人のビジネスパーソンが米国で出会った小さな健康体操教室だったことはご存知でしょうか?
コンサルティング会社出身の増本岳氏は、2004年に米国でカーブスに出会いました。翌2005年2月にカーブスジャパンを設立し、ライセンスを得て国内での展開を始めます。
その中身はかなり思い切ったものでした。会員は女性だけで、中心は50代以上です。運動は1回たった30分。多くのジムは「誰でも来られて、何でもそろう場所」を目指します。カーブスはその逆で、客を絞り、時間を短くしたのです。
ここからが本題です。
20年前に決めた「女性だけ・30分」が、いま過去最高益と会員91.9万人という結果になっています。ここからは私の推測です。当時は「ジムは若くて体を鍛えたい人の場所」という空気があり、行きづらさを感じていた人が大勢いたのではないでしょうか。対象を狭めたことで、その人たちが「ここは自分のための場所だ」と思える店になったのだと思います。学びの核はこれです。客を絞るほど、その客にとっての入りやすさは上がります。
ちなみに、私が個人開発した決済導入支援SaaS『Apps』も、既存の道具からこぼれ落ちた人に向けて作りました。当時すでに、固定費のかからないStripeという優れた決済サービスがありました。ただ、非エンジニアや小さな事業者には管理画面の言葉が難しく、決済ページを作るのもひと苦労だったのです。
そこでAppsでは、リテラシーに自信がなくてもStripeを扱える管理画面と、人の手による決済導入サポートをセットにしました。夜中に問い合わせが来ても、起きていればすぐ返します。その対応が口コミになり、少しずつ広がっていきました。カーブスと同じで、「自分には難しい」と感じていた人に合わせて作り込むほど、選ばれる理由がはっきりするのです。
さて、ここから私たち個人開発者が何を学べるのか整理します。
❶「誰でも」を捨てて、取りこぼされている人を選ぶ
→既存の商品が想定していない人は、どの市場にもいます。最初の客は「みんな」ではなく、その人たちに決めましょう。
❷機能を足すより、ハードルを削る
→カーブスは1回を30分にしました。続かない理由を一つずつ消すほうが、機能を一つ増やすより効きます。
❸絞った客に、とことん付き合う
→狭い客層は、満足すればそのまま口コミの起点になります。小さく始める人ほど、対応の速さと丁寧さで勝てます。
というわけで、カーブスの事例を参考に、自分のプロダクトの「対象外」になっている人を一度書き出してみてください。そこに、まだ誰も本気で向き合っていない市場が隠れているかもしれません。
結論。
小さく始めるなら、客は絞ったほうが強いです。「誰でも使える」は、裏を返せば「誰のためでもない」になりがちです。誰に「自分のための場所だ」と思ってもらうかを先に決めた人が勝ちます。
やるしかねえ。Don’t Work!
今日は良品計画の本決算。見通しどおりなら3年連続の最高益だが、書いたのは数字より前の1980年の話のほう。
個人開発者が起業で一発当てたいなら『無印良品の1980年に学べ』という話を解説します。
無印良品を展開する良品計画は、10月14日に2026年8月期の本決算発表を予定しています。7月時点の見通しでは、純利益が前期比32%増の670億円です。営業収益は16%増の9,070億円、営業利益も33%増の980億円を見込んでいます。この通りになれば3年連続の最高益です。東アジアでは化粧品の販売が想定を上回り、国内では衣料品が堅調でした。中国大陸の既存店売上高は、5月、6月と前年同月比20%超の伸びです。いまや日本を代表する小売ブランドのひとつと言っていいでしょう。
そんな無印良品ですが、実はその原点が「割れたしいたけ」だったことはご存知でしょうか?
無印良品が生まれたのは1980年です。西友のプライベートブランドとして、わずか40品目でのスタートでした。掲げたコピーは「わけあって、安い。」。その象徴が「割れしいたけ」です。製造の途中で欠けたり割れたりしたしいたけは、味が変わらないのに正規の流通から外されるのが業界の慣行でした。無印良品はそこに異を唱えました。形が悪いだけの品を、安い理由を正直に明かしたうえで商品にしたのです。見た目より中身で選ぶという買い方は、当時の消費者にもかなり新鮮だったのではないでしょうか。その後、1989年に良品計画が設立され、ブランドは大きく育っていきました。
ここからが本題です。670億円の純利益を見込む会社の原点は、新しい技術でも大きな資本でもありませんでした。業界が「売り物にならない」と捨てていたものです。割れしいたけは、品質を落とさずに安くできる理由そのものでした。理由がはっきりしているから、安くても安っぽく見えません。その理由を隠さずに見せたことが、のちのブランドの考え方につながったと私は見ています。40品目の小さな始まりと、いまの最高益は地続きです。つまり、メシのタネは誰かが当たり前に捨てているものの中にあります。
ちなみに、私が個人開発した決済導入支援SaaS『Apps』も、最初は売り物ですらありませんでした。始まりは、知り合いの税理士から受けた「クレカ決済を導入したい」という相談です。商品にするつもりはなく、目の前のその人が困らないように手を動かしただけでした。
ところが、その人のために無償で作った仕組みが、周りの人たちから思いのほか感謝されたんです。自分では「頼まれたから作っただけ」と片付けていたものを、お金を払ってでも欲しい人がいました。そこで商品として磨き直したのが、いまのAppsです。無印良品と同じで、作り手が売り物だと思っていなかったものの中に、買い手が待っていた価値が眠っていたのです。
さて、ここから私たち個人開発者が何を学べるのか整理します。
❶捨てているものを棚卸しする
→ボツにした企画、使い回しているスクリプト、知り合いに頼まれて作った小さな仕組み。自分が「価値ゼロ」と判断したものを、一度すべて書き出してみてください。人に見せる前に捨てたものほど、他人には新鮮に映ることがあります。
❷「わけ」を隠さず値札に変える
→機能が少ない、見た目が素朴、サポートは平日だけ。こうした弱点も理由を添えて出せば、「だから安い」「だから迷わない」という売りに変わります。
❸40品目から始める
→無印良品も最初は40品目でした。最初から全部そろえる必要はありません。1人の困りごとに効くものを1つ出して、反応を見ながら増やせば十分です。
というわけで、無印良品の事例を参考に、新しいアイデアを探す前に、自分のフォルダや過去の頼まれごとの中に眠っている「割れしいたけ」を探してみてください。
結論。
アイデアを探すより、自分が捨てたものを見直すほうが早い。捨てる理由がはっきりしているものほど、安く売れる理由もはっきりしています。勝ち筋は、業界の当たり前が見落としている側にあります。
やるしかねえ。Don’t Work!
個人開発者が起業で一発当てたいなら『シャープの1923年に学べ』という話を解説します。
シャープが開発中の排水レス循環型洗濯システム『トリプルフリーランドリー』が、「CEATEC AWARD 2026」で優秀賞を受賞しました。洗濯に使った水を独自のフィルターでろ過・浄化し、次の洗濯にまた使う仕組みです。小型で運びやすく、給排水設備のない場所にも置けるため、災害時の避難所などでの利用を想定しています。10月13日から幕張メッセで開かれるCEATECにも出展されていて、早期の実用化を目指して開発が進められています。家電で磨いてきた技術を、防災という新しい場所に持ち込んだ形です。
そんなシャープですが、実は創業者が震災で工場も家族も失い、看板事業を手放してゼロから再出発した会社だということはご存知でしょうか?
創業者の早川徳次は、1912年に東京で金具の下請け加工から事業を始め、1915年に金属製の繰出鉛筆を発明しました。これが「シャープペンシル」として売れ、のちの社名の由来にもなります。ところが1923年9月1日の関東大震災で工場は焼け、2人の子どもを亡くしました。手元に残ったのは返済しきれない借金でした。早川はその返済のために、シャープペンシルの特許と事業を日本文具製造に譲ります。自分を有名にした看板商品を、自分の手で手放したのです。
それでも早川は止まりませんでした。1924年に大阪で早川金属工業研究所を開き、目をつけたのがラジオです。日本でラジオ放送が始まろうとしていた時期でした。そして1925年、国産第1号とされる鉱石ラジオ受信機の開発に成功します。大阪で仮放送が始まった日には、このラジオで放送がはっきり聞こえたと伝えられています。
ここからが本題です。早川が震災で失ったのは、工場と家族と看板商品でした。ただ、金属を精密に加工する腕までは失っていません。その腕を、放送開始という「これから始まる波」に向けたことで、シャープは家電メーカーへの道を歩き始めます。洗濯の技術を避難所に持ち込む今回のニュースも、私には同じ発想の延長に見えます。事業は手放しても、手に残った技術は次の波に持ち込めるのです。
ちなみに、私が個人開発した決済導入支援SaaS『Apps』も、自分の稼ぎを利用者の売上の伸びに乗せる形にしています。料金は月額のサブスクではなく、利用者の決済金額の2%だけです。コンセプトは『ジェネリックSaaS』で、利用者の売上がゼロなら私には1円も入りません。
逆に言えば、利用者の商売が育つほどAppsも育ちます。そうして4年で流通総額100億円を突破しました。シャープと同じで、自分の商品を、これから大きくなる相手の波に乗せたのです。
さて、ここから私たち個人開発者が何を学べるのか整理します。
❶看板を捨てても、腕は残る
→プロダクトが失敗しても、作る途中で身についた技術は残ります。次に作るものは、失ったものではなく手元に残ったものから考えましょう。
❷これから始まる波に先回りする
→早川は放送が始まる時期に合わせてラジオを作りました。すでに大きい市場より、これから人が集まる場所に自分の腕を置いておきましょう。
❸自分の売上を相手の成長につなげる
→ラジオは放送が広がるほど必要とされる道具です。利用者が伸びるほど自分も伸びる値付けにしておけば、波が大きくなるほど追い風になります。
というわけで、シャープの事例を参考に、いま手元に残っている技術を棚卸しして、これから始まりそうな波にひとつ当ててみてください。
結論。
失ったものを数えても、次の事業は始まりません。手に残った腕と、始まったばかりの波。この2つがそろえば、ゼロからでも再出発できます。
やるしかねえ。Don’t Work!
震災で看板のシャープペンシル事業を手放したシャープとは逆に、自分から看板を下ろしに行った会社の話はゲオの回で書いた。こちらは40年目に、創業の名前を社名から外している。
個人開発者が起業で一発当てたいなら『ゲオの2008年に学べ』という話を解説します。
ゲオホールディングスは10月1日、社名を「セカンドリテイリング」に変えます。発表は2025年7月でした。1986年に愛知県豊田市のビデオレンタル店から始まった会社が、創業40周年の節目に社名から「ゲオ」を外すことになります。新社名は、中古を意味する英語「second-hand」にちなんだものです。リユースで世界のトップランナーを目指すという決意が込められています。
さらに9月27日には、日経がゲオHDの新業態「ゲオデジタルベース」を報じました。中古デジタル品の買い取り・販売に加え、スマホやゲーム機の修理やレンタルまで扱う店です。2000年代初頭の「ネオレトロ」な商品が30〜40代に支持され、ゲームソフトの売上は通常のゲオの5倍に達しています。
そんなゲオですが、実はレンタル屋のイメージが強かった2008年に、古着や雑貨のリユース店を傘下に入れていたことはご存知でしょうか?
当時のセカンドストリートは、フォー・ユーという別会社が運営していました。ゲオは資本業務提携を経て、2008年にTOBで株式の過半を取得し、連結子会社にしています。2010年には完全子会社になりました。
本業とは畑違いに見える古着にお金を入れた決断です。当時はまだレンタルが主力だったと考えられます。
セカストの経営に関わってきた一戸綱樹氏は、ゲオと一緒になって資金力が一気に上がり、店舗数を大きく伸ばせたと振り返っています。
2011年に33歳で社長に就いた遠藤結蔵氏は、売買やレンタルができる基幹システムを内製で育ててきたと説明しています。そのうえで「その仕組みにゲームやDVD、CD、コミックなどを載せたのがGEOで、服や雑貨を載せたのがセカンドストリート」と語っています。
ここからが本題です。
今回の社名変更も、デジタル中古の新業態も、突然の方向転換ではありません。買い取り、値付けし、売るという仕組みに、別の品種を載せ替え続けてきた結果です。ゲームから古着へ、古着からスマホやレトロゲームへと広げてきました。伸びる会社は新しい事業をゼロから作りません。いま回っている仕組みに載せる商品を替えているのです。
ちなみに、私が個人開発した決済導入支援SaaS『Apps』も、決済の仕組みそのものを発明したわけではありません。土台にしたのは、固定費のかからないStripeです。ただ、非エンジニアや小さな事業者には管理画面の言葉が難しく、決済ページを作るところでつまずきがちでした。そこで、リテラシーが低くても扱える管理画面と、人力の導入サポートをその上に載せました。
最初は友人のために無償で作った道具でした。周りから感謝されたので、同じものを商品として磨き直しています。ゲオと同じで、すでに動いている仕組みに何を載せ、誰に届けるかを変えれば、事業は立ち上がるのです。
さて、ここから私たち個人開発者が何を学べるのか整理します。
❶新規事業は「載せ替え」で考える
→ゼロから作る前に、手元のコード、顧客、運用の型に別の商品を載せられないかを考える。作り直さない分、速く試せます。
❷本業が稼いでいるうちに次へ張る
→受託や既存プロダクトの収入があるうちに、その現金と時間の一部を次の柱に回す。落ち目になってからでは、張る余力が残りません。
❸伸びた方に看板を架け替える
→ゲオは40年目に、創業の名前より伸びた事業の名前を選びました。小さく始めた副業が本業を追い越したら、屋号やプロフィールもそちらに寄せていい。
というわけで、ゲオの事例を参考に、いま自分が回している仕組みを書き出し、そこに別の商品を1つ載せてみてください。
結論。
勝てる事業は発明より流用から生まれます。稼げているうちに、同じ仕組みで別の品種を試した人が、次の柱を手にします。
やるしかねえ。Don't Work!
半額では客が動かず、7割引でようやく動いた。サイゼリヤの正垣さんが、客の来ない店でやった値下げの話。明日14日の本決算の前に、あの安さがどこから始まったかを書いた。
個人開発者が起業で一発当てたいなら『サイゼリヤの創業初期に学べ』という話を解説します。
10月に入り、値上げのニュースが続いています。帝国データバンクの調査では、2026年10月の飲食料品の値上げは3,153品目。2026年の値上げは判明分だけで2万品目を超え、2年連続で2万品目台になりました。原材料やエネルギー、物流費の高騰が主な理由です。そんな中、サイゼリヤは10月14日に2026年8月期の本決算を発表する予定です。値上げが当たり前になった今、安さで知られる店がどんな数字を出すのか、気にしている人も多いと思います。
そんなサイゼリヤですが、実は創業者の正垣泰彦さんが、客の来ない店を「7割引」にしたことはご存知でしょうか?
正垣さんは1967年、東京理科大学に在学中にサイゼリヤを開業しました。ところが、店にはなかなかお客さんが来ません。創業初期には、客同士の喧嘩から火事が起き、店が全焼するという存続の危機まで経験しています。
値段を下げたら来るのだろうか。そう考えた正垣さんは、定価の7割引にしてみました。すると、普段は10人だった客足が600人に増えたそうです。さすがに多すぎるので5割引にしたところ、客足はピタリと止まりました。そこで正垣さんは値段を戻すのではなく、近くに店をたくさん出してお客さんを分散させる道を選びます。
ここからが本題です。
7割引から5割引への変更は、見方を変えれば値上げです。値引きを少し浅くしただけで、600人の行列が止まりました。お客さんは、作り手が思う以上に値段に正直に反応します。そして正垣さんは、溢れたお客さんを値上げで減らすのではなく、受け皿を増やして受け止めました。みんなが値上げに向かう今こそ、この判断が効いてきます。学びの核はこれです。客が来ないなら値段を疑い、客が溢れたら値段ではなく受け皿を増やせ。
ちなみに、私が個人開発した決済導入支援SaaS『Apps』も、値段を「入口」として設計しています。小さな事業者にとって、毎月の固定費は「使いこなせるか分からないうちから出ていくお金」です。そこでAppsは月額のサブスクをやめ、利用者の決済金額の2%だけをいただく形にしました。お客さんの売上が立たなければ、私の取り分も1円もありません。
高い月額を払わなくても使える『ジェネリックSaaS』として届けてきた結果、4年で流通総額100億円を突破しました。サイゼリヤと同じで、お客さんが迷わず入ってこられる値段こそが、いちばん強い集客になるのです。
さて、ここから私たち個人開発者が何を学べるのか整理します。
❶客が来ないなら、まず値段を疑う
→機能や宣伝を足す前に、値段が入口をふさいでいないかを見直しましょう。正垣さんが最初に動かしたのも、メニューではなく値段でした。
❷値段への反応は、試せば数字で分かる
→10人と600人の差は、やってみるまで誰にも分かりませんでした。無料期間や従量課金など、小さく値段を動かして反応を測りましょう。
❸客が溢れたら、値上げより受け皿を増やす
→個人開発なら、サポートのテンプレート化や手順書づくりで、ひとりでさばける量を増やせます。安さで集めた信頼を、値上げで手放さないことです。
というわけで、サイゼリヤの事例を参考に、自分のサービスの値段がお客さんの足を止めていないか、一度疑ってみてください。
結論。
値上げの波に乗るかどうかより先に、自分の値段で何人が入ってくるかを測るべきです。客が溢れたときに増やすのは、値段ではなく受け皿です。
やるしかねえ。Don’t Work!
個人開発者が起業で一発当てたいなら『サイゼリヤの創業初期に学べ』という話を解説します。
10月に入り、値上げのニュースが続いています。帝国データバンクの調査では、2026年10月の飲食料品の値上げは3,153品目。2026年の値上げは判明分だけで2万品目を超え、2年連続で2万品目台になりました。原材料やエネルギー、物流費の高騰が主な理由です。そんな中、サイゼリヤは10月14日に2026年8月期の本決算を発表する予定です。値上げが当たり前になった今、安さで知られる店がどんな数字を出すのか、気にしている人も多いと思います。
そんなサイゼリヤですが、実は創業者の正垣泰彦さんが、客の来ない店を「7割引」にしたことはご存知でしょうか?
正垣さんは1967年、東京理科大学に在学中にサイゼリヤを開業しました。ところが、店にはなかなかお客さんが来ません。創業初期には、客同士の喧嘩から火事が起き、店が全焼するという存続の危機まで経験しています。
値段を下げたら来るのだろうか。そう考えた正垣さんは、定価の7割引にしてみました。すると、普段は10人だった客足が600人に増えたそうです。さすがに多すぎるので5割引にしたところ、客足はピタリと止まりました。そこで正垣さんは値段を戻すのではなく、近くに店をたくさん出してお客さんを分散させる道を選びます。
ここからが本題です。
7割引から5割引への変更は、見方を変えれば値上げです。値引きを少し浅くしただけで、600人の行列が止まりました。お客さんは、作り手が思う以上に値段に正直に反応します。そして正垣さんは、溢れたお客さんを値上げで減らすのではなく、受け皿を増やして受け止めました。みんなが値上げに向かう今こそ、この判断が効いてきます。学びの核はこれです。客が来ないなら値段を疑い、客が溢れたら値段ではなく受け皿を増やせ。
ちなみに、私が個人開発した決済導入支援SaaS『Apps』も、値段を「入口」として設計しています。小さな事業者にとって、毎月の固定費は「使いこなせるか分からないうちから出ていくお金」です。そこでAppsは月額のサブスクをやめ、利用者の決済金額の2%だけをいただく形にしました。お客さんの売上が立たなければ、私の取り分も1円もありません。
高い月額を払わなくても使える『ジェネリックSaaS』として届けてきた結果、4年で流通総額100億円を突破しました。サイゼリヤと同じで、お客さんが迷わず入ってこられる値段こそが、いちばん強い集客になるのです。
さて、ここから私たち個人開発者が何を学べるのか整理します。
❶客が来ないなら、まず値段を疑う
→機能や宣伝を足す前に、値段が入口をふさいでいないかを見直しましょう。正垣さんが最初に動かしたのも、メニューではなく値段でした。
❷値段への反応は、試せば数字で分かる
→10人と600人の差は、やってみるまで誰にも分かりませんでした。無料期間や従量課金など、小さく値段を動かして反応を測りましょう。
❸客が溢れたら、値上げより受け皿を増やす
→個人開発なら、サポートのテンプレート化や手順書づくりで、ひとりでさばける量を増やせます。安さで集めた信頼を、値上げで手放さないことです。
というわけで、サイゼリヤの事例を参考に、自分のサービスの値段がお客さんの足を止めていないか、一度疑ってみてください。
結論。
値上げの波に乗るかどうかより先に、自分の値段で何人が入ってくるかを測るべきです。客が溢れたときに増やすのは、値段ではなく受け皿です。
やるしかねえ。Don’t Work!
客の来ない店が、普通はやらない手に振り切った話は、ドン・キホーテの1978年の回でも書いた。あちらは金も人手もない18坪の店が、深夜営業と圧縮陳列に行き着いた。
個人開発者が起業で一発当てたいなら『ドン・キホーテの1978年に学べ』という話を解説します。
9月29日、日本経済新聞が報じたところによると、ドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が、「トイザらス」の日本事業を引き継ぐ方針です。対象は全150店舗で、取得総額は100億円規模になる可能性があるとされています。日本トイザらスは直近まで8期連続で最終赤字が続いていて、年内にも日本の店舗運営から撤退する方針だといいます。少子化でおもちゃ専門店の経営が厳しくなるなか、その売り場をまとめて引き受けるのがドンキ、という構図です。
そんなドンキですが、実は始まりが西荻窪のたった18坪の雑貨店だったことはご存知でしょうか?
1978年、創業者の安田隆夫氏は29歳のとき、東京・西荻窪に『泥棒市場』という店を開きました。お金がないので宣伝費はかけられない。店が小さいので長い名前も付けられない。そこで4文字ぐらいでインパクトのある名前を考えた、と本人が語っています。仕入れたのは、倒産企業の処分品や廃盤品といった訳ありの商品でした。
人も雇えず、品出しから何まで全部1人でやっていました。夜11時に店を閉めてから翌朝の陳列を全部見直し、夏場は店内に段ボールを敷いて寝ていたそうです。
段ボールに入った在庫をそのまま店内に積み上げる売り方は、のちの圧縮陳列につながりました。積んだ段ボールは外から中身が見えないので、手書きのPOPを大量に貼りました。ある晩、作業が深夜まで長引き、1人で店じまいをしていたところにお客さんが来ました。このとき深夜マーケットの可能性を確信したことが、ドンキの深夜営業の始まりだったといいます。
ここからが本題です。
いまトイザらスの150店舗を引き受けようとしている巨大チェーンの看板の武器は、どれも会議室で練った戦略から生まれたものではありませんでした。金も人手もない18坪で、とにかく店を回そうとした結果として出てきたものだと、私は当時の証言から読み取っています。つまり、制約の中で「こうするしかなかったやり方」こそが、後から誰にも真似できない強みになるのです。
ちなみに、私が個人開発した決済導入支援SaaS『Apps』も、お金の取り方で自分の逃げ道をふさいでいます。月額のサブスク料金はいただいていません。受け取るのは、利用者の決済金額の2%だけです。自分では『ジェネリックSaaS』と呼んでいて、お客さんの売上がゼロなら、私の手元にも1円も入りません。
お客さんが売れなければ自分も食べられないので、実際に決済が回るところまで付き合うことになります。夜中に問い合わせが届いても、起きていればその場で返します。その積み重ねが口コミで広がり、4年で流通総額100億円を超えました。ドン・キホーテと同じで、打てる手が少なかったからこそ、その手を磨き込んだところが看板になるのです。
さて、ここから私たち個人開発者が何を学べるのか整理します。
❶足りない前提のまま、まず回してみる
→人もお金もない状態で回したやり方が、そのままサービスの個性になります。体制が整うのを待たずに、1人で回る形を先に作りましょう。
❷自分が汗をかいている時間と作業に、需要が落ちている
→安田氏は、深夜の店じまい中に想定外のお客さんと出会いました。問い合わせが来る時間帯や、手作業で対応している場面を見直してみてください。
❸見えない中身は、言葉で補えばいい
→段ボールに手書きPOPを貼ったように、価値が伝わらないなら説明を足せば済みます。洗練された画面より、一言の手書きの説明のほうが効く場面は多いです。
というわけで、ドン・キホーテの事例を参考に、いま自分が「仕方なく」やっている作業を書き出して、その中に武器が眠っていないか見直してみてください。
結論。
制約は取り除くものではなく、使うものです。金も人手もないうちに生まれたやり方ほど、大手は真似できません。18坪から始めることは不利ではなく、勝ち筋の前提条件です。
やるしかねえ。Don’t Work!
個人開発者が起業で一発当てたいなら『無印良品の1980年に学べ』という話を解説します。
無印良品を展開する良品計画は、10月14日に2026年8月期の本決算発表を予定しています。7月時点の見通しでは、純利益が前期比32%増の670億円です。営業収益は16%増の9,070億円、営業利益も33%増の980億円を見込んでいます。この通りになれば3年連続の最高益です。東アジアでは化粧品の販売が想定を上回り、国内では衣料品が堅調でした。中国大陸の既存店売上高は、5月、6月と前年同月比20%超の伸びです。いまや日本を代表する小売ブランドのひとつと言っていいでしょう。
そんな無印良品ですが、実はその原点が「割れたしいたけ」だったことはご存知でしょうか?
無印良品が生まれたのは1980年です。西友のプライベートブランドとして、わずか40品目でのスタートでした。掲げたコピーは「わけあって、安い。」。その象徴が「割れしいたけ」です。製造の途中で欠けたり割れたりしたしいたけは、味が変わらないのに正規の流通から外されるのが業界の慣行でした。無印良品はそこに異を唱えました。形が悪いだけの品を、安い理由を正直に明かしたうえで商品にしたのです。見た目より中身で選ぶという買い方は、当時の消費者にもかなり新鮮だったのではないでしょうか。その後、1989年に良品計画が設立され、ブランドは大きく育っていきました。
ここからが本題です。670億円の純利益を見込む会社の原点は、新しい技術でも大きな資本でもありませんでした。業界が「売り物にならない」と捨てていたものです。割れしいたけは、品質を落とさずに安くできる理由そのものでした。理由がはっきりしているから、安くても安っぽく見えません。その理由を隠さずに見せたことが、のちのブランドの考え方につながったと私は見ています。40品目の小さな始まりと、いまの最高益は地続きです。つまり、メシのタネは誰かが当たり前に捨てているものの中にあります。
ちなみに、私が個人開発した決済導入支援SaaS『Apps』も、最初は売り物ですらありませんでした。始まりは、知り合いの税理士から受けた「クレカ決済を導入したい」という相談です。商品にするつもりはなく、目の前のその人が困らないように手を動かしただけでした。
ところが、その人のために無償で作った仕組みが、周りの人たちから思いのほか感謝されたんです。自分では「頼まれたから作っただけ」と片付けていたものを、お金を払ってでも欲しい人がいました。そこで商品として磨き直したのが、いまのAppsです。無印良品と同じで、作り手が売り物だと思っていなかったものの中に、買い手が待っていた価値が眠っていたのです。
さて、ここから私たち個人開発者が何を学べるのか整理します。
❶捨てているものを棚卸しする
→ボツにした企画、使い回しているスクリプト、知り合いに頼まれて作った小さな仕組み。自分が「価値ゼロ」と判断したものを、一度すべて書き出してみてください。人に見せる前に捨てたものほど、他人には新鮮に映ることがあります。
❷「わけ」を隠さず値札に変える
→機能が少ない、見た目が素朴、サポートは平日だけ。こうした弱点も理由を添えて出せば、「だから安い」「だから迷わない」という売りに変わります。
❸40品目から始める
→無印良品も最初は40品目でした。最初から全部そろえる必要はありません。1人の困りごとに効くものを1つ出して、反応を見ながら増やせば十分です。
というわけで、無印良品の事例を参考に、新しいアイデアを探す前に、自分のフォルダや過去の頼まれごとの中に眠っている「割れしいたけ」を探してみてください。
結論。
アイデアを探すより、自分が捨てたものを見直すほうが早い。捨てる理由がはっきりしているものほど、安く売れる理由もはっきりしています。勝ち筋は、業界の当たり前が見落としている側にあります。
やるしかねえ。Don’t Work!
事業計画を「次に何人雇うか」から書き始めるのは、そろそろ古いのかもしれない。noteは社員が10人減って、営業利益が6.7倍になった。
気づいてるか?
文章投稿サービスのnoteが、社員が10人減ったのに営業利益を6.7倍にしたことが話題だが、このニュースの核心は「AIで人が要らなくなった」ではなくて、
『会社が大きくなることと、人を雇うことが切り離され始めた』ということだ。その理由と新たなビジネスチャンスについて解説する。10月6日、noteの運営会社が、2025年12月から2026年8月までの9カ月の成績を発表した。noteは、誰でも文章や漫画を載せて、有料で売ることもできる場所だ。
売上は40億5800万円で、前の年の同じ時期より33%増えた。本業の儲けを示す営業利益は8億4900万円で、約6.7倍。その一方で、正社員と契約社員の数は161人から151人に減った。
目を引くのは、売上のうち給料など人にかかるお金の割合を示す人件費率だ。これが30.1%から19.9%に下がった。売上100円のうち30円が人に回っていたのが、約20円で済むようになった計算になる。
noteはAIの道具を全社で使い、採用は本当に必要な役割に絞ると決めている。人件費率も、これから下げ続ける方針だ。
ChatGPTを自分で触ったことがある人は多いはずだ。違うのは、個人の便利技で終わらせず、人を増やさない前提を採用の方針にまで組み込んだ点にある。
これまでの会社は、売上が増えると仕事も増え、そのぶん人を雇ってきた。売上と給料が一緒に膨らむので、儲けは思ったほど増えない。
昔ながらの寿司屋は、客が増えれば握る人も運ぶ人も足すしかない。回転寿司は、皿をレーンで運び、注文はタッチパネルで受け、会計は皿の枚数で数える。だから客が倍になっても、店員を倍にせずに店が回る。
noteで起きたことも、仕組みとしては同じだ。AIで一人がこなせる仕事が増えると、売上が伸びても人を足さずに済む。単純計算で、人にかかるお金は約9.2億円から約8.1億円へ、むしろ1割ほど減った。増えた売上の多くが、そのまま儲けとして残る。売上33%増で営業利益6.7倍という差は、ここから生まれている。
人を減らして経費を削っただけでは、と思った人は鋭い。だが、削るだけなら売上は伸びないし、noteは人が減った同じ時期に売上を3割以上伸ばしている。
つまり、会社の伸び方が変わり始めた。これまでは、何人雇えたかが成長の目安だった。これからは、人を増やさずにどこまで回せるかで差がつく。人を雇う余裕のない小さな会社ほど、この変化で得をする側に立てる。
ちなみに、非エンジニアの私が個人開発した決済導入支援SaaS『Apps』は、Stripeを誰でも使える管理画面を作り、人の手は導入の相談と、夜中でも起きていれば返す問い合わせ対応に回した。困った相手を待たせないためだ。その結果、Appsは4年で流通総額100億円を突破した。同じ構造(仕組みで片づく作業から人を外し、人にしかできない仕事に寄せること)が、今回のニュースの中心にある。
では、どう張るか。新しいビジネスチャンスは3つある。
「定型業務の自動化代行」ビジネス。社員10〜30人の会社に、請求書づくりや問い合わせの仕分けをAIで回す仕組みを作り、月額で面倒を見る。ドイツのn8n『n8n』は一人の副業から始まった業務自動化ツールで、評価額(投資家が付けた会社の値段)は25億ドルに達した。
「電話番の置き換え」ビジネス。美容室や整骨院など電話番が足りない店に、予約電話をAIで受ける設定を代行し、月々の手直しまで請け負う。日本のIVRy『アイブリー』は電話をAIで受け、内容を文字に起こすサービスで、累計発着信数(受けた・かけた電話の合計)は1億件を超えた。
「社内ツールの自作支援」ビジネス。エンジニアのいない会社に、在庫表や予約表をAIとの会話で作る方法を教える。イスラエルのBase44『Base44』は文章で頼むだけでアプリが作れるサービスで、一人で創業して約6カ月で、サイト作成のWixに8,000万ドルで買われた。
結論。
売上が伸びるたびに人を探し、育て、給料を払う。小さな会社を一番苦しめてきたこの順番が、いま崩れ始めている。この先で強いのは、AIに詳しい人というより、どの仕事を人から外せるかを一社ずつ見極められる人だろう。つまり、人を増やさずに伸びたい小さな会社の手順づくりが、これからの有望テーマになっていく。
やるしかねえ。Don’t Work!
【持ち帰りは1%、店内で食べると10%】
2026年10月9日に閣議決定された、食料品の消費税を1%に下げる法案の話だ。
2027年4月1日の朝、同じ店の同じ弁当に、税率が2つつく。持ち帰れば消費税は1%。店の中で食べれば10%。本体500円の弁当なら、単純計算で505円と550円。45円の差が、レジの前で毎回つきつけられる。
法案の中身はこうだ。飲食料品の消費税率を、2027年4月から2年間に限って8%から1%に下げる。外食は対象に入らず、10%のまま。残る1%分は「就業者負担軽減支援金」という名前で、中低所得の働く人に原則年1回の給付で返す。なぜ0%でなく1%なのか。政府の説明は一つで、0%にすると事業者がレジや経理の仕組みを直す期間が長くなり、2027年4月に間に合わない。1%なら間に合う。成立はこれからの国会次第で、会期末は12月12日。だが外食の業界団体は、閣議決定の当日に会見を開いた。
日本フードサービス協会が会員410社に聞いたところ、204社が答え、57.8%が「減税のあとで客数が減る」と見込んだ。分からないが28.9%。客単価は、下がるが21.1%、影響なしが31.9%、分からないが36.8%。協会が重くみているものの一つが、「外食は高い」という空気だ。弁当が1%になれば、店内の値段が1円も上がっていなくても、外で食べる行為だけが高く見える。
ここで、外食は損をするだけだと思った人は鋭い。だが、前回の数字は少し違うことを言っている。
2019年10月、消費税が10%になり、食料品だけ8%に残った。店内と持ち帰りの差は2%。その月、協会の会員企業の客数は前年比で5.4%減った。台風19号が連休を直撃した月でもあるが、店内飲食が中心の業態で客足への影響が出て、ファミリーレストランは7.3%減。一方で、調査会社エヌピーディー・ジャパンの集計では、同じ月にイートインの客が7.6%減る裏で、持ち帰りと出前の客は6.1%増え、売上は12.5%増えた。2%の差で、客は安い側へ動いた。今度の差は9%だ。
つまり、客を動かすのは商品の差ではない。値段の線の差だ。同じ弁当でも、線のどちら側に置くかで売れ方が変わる。線を引くのは国で、店には選べない。選べるのは、自分の商品を線のどちら側に置くか、それだけだ。
ちなみに、非エンジニアの私が個人開発した決済導入支援SaaS『Apps』は、線の安い側に置いた商売だ。きっかけは知り合いの税理士の「クレカ決済を入れたい」という相談だった。固定費のかからないStripeは当時すでにあったが、小さな事業者には管理画面の言葉が難しく、決済ページを作るのも難しかった。そこで、リテラシーが低くても使える管理画面と人力の導入サポートを作り、料金は月額ではなく決済金額の2%だけにした。売上がゼロの月は、1円も取らない。その結果、Appsは4年で流通総額100億円を突破した。弁当の持ち帰りと同じで、中身を変えたのではなく、客が「高い」と感じる線の手前に置いたのだ。
さて、ここから個人開発者が何を学べるか整理する。
❶自分の商品の「線」を見つける
→客が高いと感じる境目は、商品の中身ではなく値段の形にある。税率、月額、最低利用料、年契約。客がためらう線を1本、名指しする。
❷線の安い側に商品を置き直す
→弁当なら持ち帰り、決済なら月額から従量へ。中身を変えずに、置き場所を変える。2019年に持ち帰りの売上を12.5%伸ばした店は、新しい商品を作ったわけではない。
❸線が動く日を、先回りして予定表に書く
→2027年4月1日は、外食の線が動く日だ。持ち帰りの事前注文、店内と持ち帰りで2本になる値札の管理、1%と10%が混ざるレシートの経理。線が動く日の前に道具を置いた者が、その日に取る。
今日、自分の商売で客がためらう線を1本、書き出してみてほしい。
結論。
持ち帰り1%、店内10%。この9%の差が外食から客を奪うかどうかは、まだ分からない。だが2019年の2%の差は、店内の客を7.6%減らし、持ち帰りの売上を12.5%増やした。税率の差は客を消したのではなく、安い側へ動かした。つまり、見るべきは減税の損得ではなく、客がどの線を越えて動くかになる。
やるしかねえ。Don’t Work!



