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ヴァイオリン奏者の視点からなぜブルックナーは弾きづらいのかを、第5番をもとに和声法や対位法を用いて譜例付きで説明する準備もしたけど、曲自体の「面白さや魅力」とは直結しないだろうと思い、書くのをやめました。
第2ヴァイオリン次席奏者の #横島礼理 は、
演奏家としてのみならず、優れた音楽の語り手でもあります。
作曲家たちのエピソードや鋭い楽曲分析、そして横島ならではの豊かな発想によって紡がれる文章は、
作品への理解を深めるだけでなく、音楽を聴く楽しみも広げてくれます。
そんな横島が、今回のブルックナー《交響曲第5番》への想いをたっぷりと綴ってくれました。
<音楽のDNAが繋ぐ奇跡の夜〜ブルックナー:交響曲第5番に寄せて>
この作品には、目に見えない「歴史や伝統の繋がり」が強く息づいています。
モーツァルトの宗教音楽が大好きな私にとって、この《5番》は冒頭から惹きつけられます。
チェロとコントラバスによる静かなピチカートに乗せて、私たちヴァイオリンとヴィオラが掛留音 (※) で絡み合う様は、まるでモーツァルトの《レクイエム》の冒頭。
巨匠アーノンクールもこの類似性を指摘していますが、第2楽章のクライマックス直前にも、《レクイエム》の〈ラクリモサ(涙の日)〉に酷似したフレーズが登場します。
※掛留音=前の音を引っ張って、わざと不協和音にして緊張感を高め、その後解決させる方法。
緊張と解放のゆらぎで音楽に独特の美しさや深みを与える。
面白いことに、今回演奏する「ノヴァーク版」を作った音楽学者レオポルト・ノヴァークは、《モーツァルトのレクイエム》の決定版スコアを校訂した人物でもあります (直筆譜や筆跡研究にもとづき、モーツァルト自身の書いた部分と、弟子たちによる補筆部分の区別に大きく貢献しました)。
さらに歴史の糸は繋がります。今回タクトを振るマエストロ、マティアス・バーメルト氏は、モーツァルトに多大な影響を与えたミヒャエル・ハイドン(ヨーゼフ・ハイドンの弟)の交響曲集の録音を遺すなど、古典音楽への深い造詣をお持ちです。そしてブルックナーの少年時代、作曲家やオルガニストを志すきっかけとなった音楽体験のひとつは、リンツの教会で聴いたミヒャエル・ハイドンの音楽だと言われています。
ミヒャエル・ハイドン、モーツァルト、ブルックナー、ノヴァーク。そしてバーメルト。偉大な音楽家たちが時空を超えて一本の線で繋がっていることに、深い感動を覚えずにはいられません。
(N響が100年かけて紡いできた伝統の響きで挑む)この交響曲の真骨頂は、やはり第4楽章だと思います。ブルックナーが心血を注いで書き上げたにもかかわらず、本人は一度も実演を聴くことができないままこの世を去りました。
作曲家が夢見ながらも聴けなかった、あの複雑なフーガによる「音の迷宮」を生の立体的な響きで体験できるのは、現代を生きる私たちの特権であり、ひとつの奇跡です。











